終の棲家としてのマイホームの条件
どうも千日です。当ブログへの寄稿を募集したところ、現役の理学療法士の読者さまからご応募いただきました。ご本人はブログは書いておらず、ご自身が家を建てられる参考に千日のブログを読んでくださっている方です。
高齢者のリハビリの現場で多くのケースを見てきた方です。なので、これから終の棲家として家を買う(建てる)にあたって『理学療法士がこれだけは伝えたい(教える)老後を生きられる家の条件』というテーマで書いていただけませんか?とお願いしました。
リハビリの現場で多くの高齢者の方がリアルに直面している『壁』とそれを取り除くためのアドバイスです。
では、どうぞ。
這って移動しなければならない家、それでもわが家に帰りたい
私は北海道の町立病院で理学療法士として働いています。
地元の高齢者のリハビリを中心に15年経ちましたが、病院でのリハビリだけではなく退院前の患者さんの家に訪問調査に伺い、手すりの設置や段差解消、介護保険サービスの提案などを行い、患者さんが円滑に自宅へ退院できるようにすることも仕事の一つです。
ある日訪問調査に伺うと、患者さんが這って玄関に出てきました。
最近は見慣れましたが、初めはぎょっとしました。
それ以降も患者さんが床を這って移動しているところを度々見かけます。
入院中の患者さんにリハビリの希望について聞くと皆何と答えると思いますか?
「歩けるようになりたい」 ではありません
「家に帰りたい」 なんです
患者さんは口には出しませんが、私には聞こえてくるのです。
「自分が苦労して建てたこの家に住み続けたい 死ぬまでこの家にいたい」と・・・
今までに100件を超える訪問調査を繰り返してきましたが、手すりをつけたりすることで無事に自宅に帰られる患者さんもいれば、残念ながら自宅をあきらめて施設に入所する患者さんも大勢見てきました。(施設入所が悪いわけでは決してありません)
私は理学療法士の仕事をしていく中で、マイホームに最後まで住み続けるための2つのバリアフリーが必要だということが分かってきました。それをお伝えできれば幸いです。
- 住宅のバリアフリーも大事ですが、
- 最後は家族関係のバリアフリーがポイントになるのです。
1.大前提は住宅のバリアフリー
まずは、大前提となる住居のバリアフリーのポイントからお話しします。
- 1.1手すりはたくさんあった方がいい!の落とし穴
- 1.2バリアフリーに向かない壁の素材
- 1.3中2階は素敵だけどバリアフリーに向かない
- 1.4生活の主要導線は1階にまとめるべし
- 1.5バリアフリーマンションは規約と共有部に注意
- 1.6介護保険と補助金を積極的に利用しよう
家を建てる時点では想定していなかったようなことが、意外にも退院の大きな障壁になってしまうことが少なくありません。
1.1手すりはたくさんあった方がいい!の落とし穴
足腰が弱っている場合、手すりを設置する事で歩きやすくなります。
新築の段階でバリアフリーにする事は良いと思いますが、手すりをたくさんつける事はあまりお勧めしません。それは万が一車椅子生活になった場合に手すりがある事で廊下の幅が狭くなってしまい車いすが通れなくなることもあるからです。
以前に患者さんから今後の生活に備えて手すりの設置についてアドバイスを求められた事がありました。
話をよく聞いてみると、老後の事をよく考えられている方なのですが、「廊下に手すり 居間にも手すり ベッドにも手すり 玄関にも風呂にも・・・」と家のあらゆるところに手すりをつけなければ不安な様子でした。
患者さんの希望通りに手すりをつけていくとジャングルジムのような家が出来上がりそうでした。
もちろんその後、丁寧に説明する事で納得していただき、必要最小限の改造で済み患者さんにも満足していただけました。
それに、人って年をとると身長すら変わる事があります。
背中や腰、膝が曲がることで背が10センチ以上低くなる方もいらっしゃいます。
そうなると、最初に付けた手すりの位置だと高すぎることもあります。
新築の段階でつけた方がデザインの統一感もあって良いと思いますが、老後に自分の体がどうなっているかは誰にも分かりません。
トイレやお風呂場や階段など必要最小限のものをシンプルにつける方が見た目も良いですし、おすすめです。
また、最近の家は初めから階段に手すりが付いている事がほとんどだと思います。しかし、デザイン重視で握り辛い手すりをモデルルームでもよく見かけますので、実際に試してみてからつける事をお勧めします。
1.2バリアフリーに向かない壁の素材
内装も最近は壁紙ではなく珪藻土の塗り壁にしておしゃれなところも増えました。
しかし、塗り壁は仕上げ方によっては触ると痛いですし、壁伝いに歩こうとすると服がひっかかる事もよくあります。
私も珪藻土の壁には憧れているのですが、仕上げがどんな感じでさわり心地がどうなるのか確認する事をお勧めします。
1.3中2階は素敵だけどバリアフリーに向かない
最近は中2階を多用した間取りの家も増えてきているように思います。
確かに限られた空間をうまく使っていますし、デザイン性も高くかっこいいと思います。
でも足腰が悪くなれば毎日が障害物競争みたいな家になってしまいます。個人的にはお勧めしません。
1.4生活の主要導線は1階にまとめるべし
訪問調査に伺った高齢者のみなさんが口をそろえて言う事が、「2階は使っていない」です。
高齢者にとっては階段に手すりが付いていても毎日の上り下りは厳しいようです。
昔の家はトイレを1階にしか設置していない家が多いので、夜にトイレに何度も起きることも2階を使わない理由の一つかもしれません。
平屋ではなく2階建の家であっても、生活の主要動線は1階にまとめた方がよいと思います。
以前に階段の上り下りが辛い90歳の一人暮らしのおばあちゃんがいました。
寝室のある2階にトイレはないし、夜の階段は辛いので2階のベッドの隣にポータブルトイレを置いていると言っていました。
ポータブルトイレは介護保険を利用すれば1割負担で購入できます。(償還払い)
公費負担でトイレを買えて、ベッドの隣にトイレがあるのだからすべて解決しているように思えますが、そんな簡単な事ではありません。
なぜなら用を済ませたらポータブルトイレの後始末をしなければならないからです。
結局そのおばあちゃんは自分の汚物が入ったポータブルトイレのバケツを持って毎日階段の上り下りをして1階のトイレまで往復しているというのです。
バケツを持って階段で転んだ時を想像するとぞっとします。
地獄絵図でしょう。
1.5バリアフリーマンションは規約と共有部に注意
最近のマンションはバリアフリー対応の物件が増えています。
戸建て住宅では設置に多額の費用がかかるエレベーターも標準装備ですし、室内も完全バリアフリーになっている物件を多く見るようになりました。
管理人が24時間で待機しているところもあり、特に独居老人にとっては安心感にもつながると思います。
戸建て住宅にはない利点のあるマンションですが、注意点もあげてみます。
住居改修の可否は規約による
後から体が不自由になって手すりなど住居改修を追加したい場合です。
マンションの規約によって、専有部分の工事であっても基本的に管理組合の許可、上下左右の住民の同意が必要とされる場合がほとんどです。特に共有スペースに変更を加えるのはハードルが高いです。
また規約は管理組合の決議によって変わる可能性があります。今の規約がずっと変わらないという保証はありません。
住居改修の条件がとても緩いと思って購入したのに、その後の規約の改定によってとても厳しくなってしまうこともあり得るのです。できるだけ管理組合の総会へ出席し、発言しておいた方が良いです。
共有スペースもバリアフリーになっているか?
具体的には廊下やエントランスホールや駐車場などです。
室内はバリアフリーになっていても駐車場までの距離が非常に長かったり、ドアが多かったり、段差があったりする場合があります。
また、最近のマンションはデザイン性が高く床材に大理石やインターロッキングなどさまざまな素材が使用されています。大理石は濡れると非常に滑りやすいものもありますし、インターロッキングは小さな段差が出来ることがあります。
それぞれの素材により一長一短がありますのでデザイン性だけにとらわれない見方も必要です。
1.6介護保険と補助金を積極的に利用しよう
日本には介護保険という素晴らしい制度があります。
将来体が不自由になって介護認定を受けると、手すりや段差の解消などの改修費の9割を公費で支給してもらえます。(上限20万円)
他にも押し車や車椅子をレンタルする事も出来ます。
市町村によっては介護保険で対応しきれない費用を補助しているところもありますので、自分の住んでいる地域にそういった制度がないか確認してみるとよいと思います。
公費負担制度の利用を考えると、新築時はバリアフリーにだけはしておいて手すりなどが必要になれば利用できる公費制度を調べてから改修するのが一番良いかもしれません。(それでもやっぱり中二階は改修費用がかさみます)
住宅のバリアフリーのポイント
- 将来バリアフリーにできる家にしておくことが大前提。
- 新築時の手すりは必要最小限にしておき、必要時に付ける。
- 1階だけの生活でも成り立つ導線・間取りにする。
- マンションは利点もあるが規約と共有スペースを詳しく確認。
- 介護保険や市町村の補助金情報を仕入れておく。
2.家族関係のバリアフリー
前半でお話ししたバリアフリーの家に住んでいるにもかかわらず、病院から退院する時に家に帰れない患者さんって結構多いです。
最近の家はバリアフリーが標準仕様の家も多いので、段差の少ない家に住まれている高齢の方も多いのですがそれでも家には帰れません。
不思議な事に本当はすぐに家に帰りたいのに「もっと歩けるようにならないと帰れない」「まだ足が痛いから帰れない」など、本心とは逆の事を言う患者さんも多くいます。
何故か?
同居する家族が拒むからです
同居家族と患者さんの間にできた心の壁
以下は病院でよくある医師と家族とのやりとりです。
医師:
おばあちゃんの足の骨折も良くなりましたよ
リハビリも頑張られてだいぶ歩けるようにもなったみたいですね
病院内でも一人で杖で歩けています
おばあちゃんも「入院前と変わらない」と言っていました
ここまでくれば大丈夫でしょう
おめでとうございます
退院していいですよ
家族:
先生!こんなんじゃ困ります!
もっと元気に歩けるようになってもらわないと
私たちも仕事が忙しいので面倒も見られませんし
おばあちゃん一人で何でもできるようになってもらわないと帰って来てもらっては困ります!
医師:
そうですか
そういう事でしたら退院してからすぐに家に帰るのではなく、一度介護保険施設に入所してリハビリを続けてみてはどうでしょうか?
そこで元気になってから自宅に帰るのでしたら退院しても大丈夫ですか?
家族:
はい、それなら大丈夫です
そうしてください
先生、ありがとうございます
こういうケースはとても多いです。
施設に行った後にリハビリを続ける事で自宅に帰られる方は残念ながら少数です。
そもそも90歳前後のご老体です。
入院する前から杖をついたりしながらやっと歩いて生活していた方ばかりです。
私は理学療法士なので患者さんの歩行機能を改善させるプロですが、90歳のおばあちゃんを20歳のお姉ちゃんにする事は出来ません。
もうお分かりかと思います。
家のハード面が問題なのではありません。
患者さんの歩行能力が問題なのではありません。
患者さんの家なのに、家族が家に入れてくれないのです。
なにより悲しいのは患者さんが家族の気持ちを察している事です。
『家に帰っても自分の居場所がない』
『家族が自分の退院を嫌がっている』
患者さんによっては家族に何と言われようとすぐに退院される方もいらっしゃいます。しかし、家族の気持ちを察して自ら退院できない理由を並べる患者さんがいらっしゃることも事実です。
そして、行きたくないのに施設に行くと高齢者は認知症になる可能性が高いです。
介護保険施設は悪いところではありません。ハード面も整っていますし、病院よりも家での生活に適したリハビリを提供してくれます。理学療法士の立場から患者さんにお勧めする事も多々あります。
しかし、ご本人が行きたくないのに無理やり行かされると高い確率で認知症を発症します。そうなると家族はなおさら家に帰ってくる事を強く拒むようになります。
ここまで来てしまうと、もう自分の帰りたいマイホームに帰る事はほぼ不可能でしょう。
患者さんとそのご家族との間にできた心の壁は、段差解消のように簡単ではありません。
家族間の心の壁は理学療法士にはどうする事もできません。
家族関係のバリアフリーのポイント
- 体が不自由になっても、家をバリアフリーに改装して介護保険サービスを使えば家で生活する事は十分に可能。
- なのに家に帰れない患者さんの一番の原因は、家族関係にあることが多い。
親を直接介護することの厳しさと家族の絆
私の両親も70歳になりました。両親は私のアパートから30キロ程の隣町に夫婦で暮らしていますが、母親は肝臓がんを患い治療中です。
近いうちに介護を必要とする時が来るかもしれません。私は両親がたとえ寝たきりになろうと、両親が自宅での生活を望む限り全力でサポートしたいと考えています。
しかし、最近はニュースで介護離職という言葉を聞くようになりました。親の介護の為に自分の仕事を辞めなければいけない。親を直接介護する事の厳しさを感じます。
自分にできることから、少しずつ始めようと思います。
《あとがき》
寄稿を募集したのはよいものの、まったく応募がなく(笑)寂しい気持ちでいたのですが、
少子高齢化という大きな流れは、どうしても止められないものですし、自分自身や親が老いていくのも止められません。
でも、どんなに小さなことであっても、先を見据えて、今できることから始めていくことで、大きく変わるものなんですよね。
それは、家を建てることもそうですし、
親子の絆についても同じだと思います。
理学療法士のJさま、素敵な寄稿文をありがとうございました!
2017年11月23日
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