疾病保障付き団信の本質~入って得する人と損する人
どうも千日です。住宅は人生最大の買い物です。
大半の人が35年の長期のローンを組みます。通常の団信とは、返済中の死亡、また失明などの高度障害状態になった場合に債権者に保険金が支払われ、ローンが完済となる制度です。
これによって残された家族がローン返済に苦しまずに済み、家も失わないので路頭に迷うことは無くなります。
今日の話題は最近になって取り扱う銀行が増えている疾病保障付きの団体信用生命保険(団信)の本質と、入って得する人と損する人についてです。
団体で入る割安な生命保険
保険料の支払いは金融機関が住宅ローン利用者をまとめて団体で生命保険会社に申し込むので割安な上、年齢などによる差もありません。
つまり団信の正式名称は団体信用生命保険、長期間にわたる住宅ローン返済中のリスクに対する保険です。
疾病保障付き団信のパターンと取り扱う銀行が増えた理由
この保険の仕組みを病気になったケースにも広げたのが、疾病保障付き団信です。
経済の先行き不安を背景に「返済中の安心感を」という借り主の要望が高まっていて、これに応える形でここ数年、取り扱う銀行が増えています…
なーんて言うときれいなんですけど、マイナス金利政策による歴史的な低金利で銀行の利益が圧迫されています。
住宅ローンにプラスαの付加価値を付けて「金利プラスαの収入を増やしたい」という銀行の思惑があるんです。
生命保険と住宅ローンは別物です
本質に立ち戻って考えましょうか。
節のタイトル通りなんですけど、生命保険と住宅ローンは別物です。そりゃそうですよね。
多額の債務があるんだから、特に入っておいた方が良いよ!
もちろん分かってますよ。しかし、賃貸だったら生命保険の必要性が下がるのでしょうか?
約定の家賃が払えなくなったら、即出て行かないといけなくなりますよ。家賃より住宅ローンの方が支払い額の交渉の余地は大きいです。
大黒柱が倒れるというリスクは、持ち家か賃貸に関係なく共通のリスク、家族のリスクなんです。
つまり、
生命保険の必要性は住宅ローンとは分けて考えた方が良い。
家は人生最大の買い物であり、長期の住宅ローンで多額の債務を負います。誰しも不安に駆られます。
つまりそれは、保険を売る側の視点に立てば、保険を売るのに最適なタイミングということなんです。
誤解しないで欲しいんですが「入ったら損」と言いたいのではありませんよ。よろしければ最後まで読んでから判断して下さい。
団信の保険料は住宅ローンの金利に含まれている
日本の住宅ローンでは殆どの金融機関で団信への加入が必須条件になっています。そして、団信の保険料は金融機関が負担する事になっていますね。
ゼロ円って書いてますけど、本当はゼロ円じゃありません。
- 保険料は金融機関が払っていますけど、それを払った上で利益の出るような金利に設定しています。
という事です。
仮に保険料がすこぶる上がって赤字になりそうになったら全体的に貸し出し金利を上げるんです。
経済的実質は保険料を利用者が平均的に負担している。
これが千日的にはしっくり来るんですね。
…しかしちょっと待って下さい?
- 団信の保険料は経済的に利用者が負担する。
- しかし、団信の契約者と保険金の受取人は金融機関ですね。
経済的な実質と契約関係に捻じれが生じているんです。つまり、団信は金融機関の為に住宅ローン利用者がコストを負担して入る保険なんですよ。
平たく言いますと、
- 金貸しに生命保険を掛けられて利息から保険料を取られている。
ちょっと表現はアレですが、間違った事は書いていませんよ。
ただ、もしも大黒柱が倒れたらローン残高がゼロになり、遺された家族が路頭に迷わなくて済むというメリットがあるから日本での商慣行として成立し定着しているのです。
団信加入が必須条件なのは日本の民間金融機関に特有の慣行
日本で民間金融機関の住宅ローンを借りるには団信への加入が融資の必須条件になっていますよね。
でもね、コレって本当はおかしいんです。
- 銀行は住宅に対して第一順位の抵当権の設定を受けた上で、その不動産価値で回収出来る分しか融資しません。
- 住宅は債務者にとって生活と人生の基盤ですので経済的に困窮しても最後まで払いきろうと強くコミットする債権です。
債務者に生命保険を掛けなくても、十分に回収可能性が高い優良債権なんですよ。
フラット35の新団信制度
ですから、国の出先機関である住宅金融支援機構が貸し出すフラット35については団信は義務づけられていないんです。
なお、2017年10月1日の申し込みからフラット35の団信が大幅にリニューアルしていますね。この制度変更の骨子は2つです。
- 団信保険料は実質値下げ。従来年一回ローン残高の0.358%を払う方式だったが、今後はフラット35の金利に0.28%上乗せとなり毎月の返済と一緒に支払う。
- 住宅ローン残高がゼロ円になる保障の範囲は拡大。従来高度障害と死亡が条件だったが、今後は身体障害(身体障害者福祉法1級or2級)についても保障の範囲に含まれる。
やはり制度変更となっても、加入は任意のままです。団信に加入しない場合は団信込みの金利から0.2%引下げになります。
金利に上乗せになるということで、フラット35の団信も民間金融機関の団信に近い性格のものになりましたが、身体障害も保障するというのは国内団信初のことで、保障の範囲が広くなっているというのが特徴です。
アメリカで団信に入る人は少数派
ちなみにアメリカでは義務ではありません。
アメリカの団信は、Mortgage Life Insurance または Mortgage Protection Insurance と言い、普通は住宅ローン契約の際や契約直後にローン会社から勧誘がありますが殆どのアメリカ人はこの保険には加入せず、一般の生命保険に加入するそうです。
以下の理由だと言われています。
- 掛け金が長期間同じなのに万が一何かあったときの保険会社からの支払いは返済で減った住宅ローンの元本金額である。
- 住宅ローンの元本は返済で年々減っていくので、年数が経つと、掛け金の割りに保険金が低くなり、加入者としては掛け金の割りに損をしていく感じ。
なので、健康診断に問題があって一般の生命保険に加入出来ない人が、しょうがなく加入するのがアメリカの団信だそうです。元本が減って行き、繰上げ返済できるほどに貯金が貯まれば、途中で解約するんでしょうね。
疾病保障付きの団信に加入する際の注意点
どうせ入るなら、ついでに疾病保障も付けた方が良いのか?悪いのか?について答えます。
いきなり疾病保障を考えるのではなく、まず、基本となる国のセイフティネットを確認してからにしましょう。日本の健康保険制度は先進国の中でもかなり手厚いのですよ。
まず国の健康保険制度、次に会社の福利厚生、最後に民間の生命保険や疾病保障特約付きの団信
病気に対する備えは下記のピラミッドの下から順に上へ準備をしていくのです。
まず最初に確認すべき国の社会保障制度(セイフティネット)
まず、健康保険はタダじゃありません。国民の義務として、サラリーマンなら給料から毎月天引きされて保険料を払っています。コストが掛かっているのですからその権利として受け取れる給付の内容をしっかりと把握しておきましょう。
高額医療費制度
大病を患って、医療費が何百万になろうが、月に数万円位が上限になっていて、上限を超えた部分は返金してもらえます。しかも、窓口で手続きしておけば、最初から月の上限額を超えた医療費は払わなくても良いという仕組み(限度額適用認定証)もあるんです。
たとえば、70歳未満で年収370万円以下なら月の医療費負担は57,600円が限度額です。月の医療費が100万だろうが1000万だろうがこの制度で払い戻しを申請すれば翌月には57,600円を超えた部分のお金が返ってきます。さらに『限度額適用認定証』を利用すると、はじめから窓口の支払いが57,600円で済むということです。
傷病手当金
傷病手当金は、病気療養中に本人とその家族の生活を保障するために設けられている制度で、被保険者が病気やケガのために会社を休んで、十分な給料が受けられない場合に標準報酬月額の約3分の2が支給されます。
国の社会保障の次は勤め先の福利厚生
高額医療費制度や傷病手当金は国の法律で定められている制度ですから、全ての人が受けられる給付です。さらに福利厚生が充実している会社員や公務員にはさらに上乗せの給付=付加給付というものがあるのです。
会社によっては医療費の自己負担が2万円と、高額医療費制度をさらに補完するような制度がある会社もあります。また、互助会によって見舞金が払われる場合もあり、これらを合わせると、病気になったときの自己負担額はさらに少なくなるのです。
最後に団信の疾病保障特約
団信の疾病保障特約というのは、特定の病気にかかった時や、病気によって一定期間働けなくなったときに住宅ローンの残高をゼロ円にするものです。
もしその後に回復したとしても、その後の住居費が要らなくなりますので、さらにセーフティネットを手厚く、広くするという目的で掛けるものなのです。
「無いと不安」というよりは「あるとより安心」という考え方に近いのかなと思います。
大まかに3つの保障パターンがあります。
- ガンと診断されたらローン残高がゼロになるパターン。
- 急性心筋梗塞や脳卒中などで60日以上、所定の症状が継続したらローン残高がゼロになるパターン。
- 特約で長期入院中の返済を保険で肩代わりし、一年以上になるとローン残高がゼロになるパターン。
対象となる病気
対象となる病気は❶がん、❷がん、急性心筋梗塞、脳卒中の3大疾病、❸3大疾病に高血圧症や糖尿病などを加えた7~9大疾病、❹その他の病気も含めたタイプなど。契約には別途、保険料がかかるのが一般的です。
保険料の支払い方法
保険料の支払い方法は団信によって異なりA.ローンの金利に0.2から0.3%程度上乗せ、B.ローン残高や年齢などによって保険料を決定、に大別されます。
A.はローンを組んだ時の年齢に保険料の金額は左右されませんが、B.は年齢が高いほど保険料も高くなります。
A.は中途解約できないことが多く、加入できる年齢や保障が終了する年齢も、団信ごとに異なります。
ここまで読んで団信の肝の部分を理解したなら自ずと導かれる2つのセオリーがあります。
- 年齢によって損する人と得する人がいる。
- ローン残高が減ると保険料が減るが保険金も減る。
保険料の負担が一律で損をするのは若い人、得をするのは年寄り
生命保険は若い時に加入したら保険料は安いですよね。年を取ってから入ると高いです。
例えばローン残高の0.3%が上乗せという事は?
- 若い人は本当は0.3%未満の保険料だけど0.3%負担している。
- 年寄りは本当は0.3%超の保険料だけど0.3%の負担でよい。
全く同じ条件で一般の生命保険と比較する事は出来ません。
が、A.のケースで3千万円を固定金利1%で借り、35年で返済(元利均等払い)で疾病保障付き団信の保険料が0.3%上乗せされると、完済までに約180万円の負担増になります。
そういう所から推測すると、かけ捨ての生命保険と比較すると、損か得かの分水嶺は概ね30歳から35歳位でしょう。
ローン残高と保障が比例する
団信はローン残高に一定率が上乗せになる保険料の体系です。
という事は、ローン残高が多い前半は高い保険料の代わりに保障額も大きくなります。ローン残高が少ない後半は安い保険料の代わりに保障額も小さくなります。
ローン残高のリスクに対応したコストだ。
とも言えますけど、
健康のリスク人生のリスクには非対応です。
子供が成長し教育費がかさむ時に大黒柱が病気に倒れた。繰上げ返済して住宅ローン残高は僅かになっていたので、疾病保障付き団信で僅かな住宅ローンの債務が無くなっただけだった…
前半にも述べましたが、住宅ローンと生命保険は別個に考えるべきなんです。
はじめのうちは住宅ローンの残高は何千万もありますから保障が手厚い印象があります。
しかし、住宅ローンは長年の返済によって減って行くのです。一方でがんや3大成人病にかかるリスクが高くなるのは、人生の後半ですよね。
- 健康のリスクの高い人生の後半になるほど保障額が少なくなっていく
これが、千日が団信は金融機関の為の保険と考える一番の理由なんです。団信に疾病保障を付けただけでは安心ではありません。
最初と同程度の保障を付与するには、ローン残高とライフステージに合わせて別途生命保険を掛ける必要性があります。
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まとめ
住宅ローンの金利にオンする形でフル装備の疾病保障を付けて、それだけで「自分はやれるだけのことをやった」「万全だ」と考えてしまうのは、とても危険なのですよ。住宅ローンを選ぶときの基準はあくまで毎月の返済額に無理が無いか、総支払額で有利かということが第一です。
生命保険とはいったん切り離して考えるべきです。
また、疾病保障特約が我々利用者の負担なしで付帯するネット銀行は魅力的に映ると思いますが、ネット銀行は審査が厳しい傾向にあり、基本的に融通が利きません。実際に審査に通るかどうかなども含めて総合的に判断すべきでしょう。
千日のブログを読んだ方が後悔の無い、良い決断をされれば、それが何よりの喜びです。
- 2017年10月8日にフラット35の新制度団信ほかについて更新
以上、千日のブログでした。
《あとがき》
この記事はお題を下さい千日に きっと誰かの役に立ちます - 千日のブログ 家と住宅ローンのはてな?に答えるにコメントでご相談くださったまろまろママさんへの回答のうち、団信について補足する記事です。。
まろまろママさんだけでなく、他の方の参考にもなるように書きました。
お題は随時募集してますので、どうか遠慮なくお寄せくださいね。
2016年9月15日
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30代600~1200 | 40代600~1200 | 50代1000以上 | ||
20代800以上 | 30代1200以上 | 40代1200以上 | ||
借り換え | 20代借換 | 30代借換 | 40代借換 | 50代借換 |
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