西宮市アサヒビール工場跡地の開発工事にブレーキをかける病院統合問題
- 西宮市アサヒビール工場跡地の開発工事にブレーキをかける病院統合問題
- なぜこうなった…この経緯を簡潔に説明します
- 今村市長を飛び越しての統合案
- 県立病院と市立病院の統合はある…が、移設は無い
- 統合相手を県立病院だけに執着する必要はない
- 検討期間が長びくツケは西宮市民が払う
- まとめ
2015年8月の過去記事からほぼ変化なし
- 東側は名神高速道路が走り
- 西側は阪急今津線の阪神国道駅に接し
- 南に国道2号線が走り
- 北にJR東海道本線が走る
なぜこうなった…この経緯を簡潔に説明します
なぜこうなった…と思いますよね。今のところ、誰も得をしてません。この経緯は市長の交代による計画の中途半端な転換によるのです。
現職の今村市長による前市長の計画の白紙撤回
当初前市長の河野氏の時代には、この10ヘクタールのうち3.8ヘクタールを西宮市が取得して図書館、体育館、消防署を移転する計画だったんです。
しかし、現市長の今村氏がこの計画を『時代遅れの無駄遣い』であり『民間の資金とアイデアで開発するべき』とこの計画の白紙撤回を公約に当選しました。
今村市長の折衷案
当初、今村市長は公約通り計画の白紙撤回を主張してましたが、すでに議会で可決されていた事項であり、議会の強い反撥に耐えきれず、折衷案を出したんです。
西宮市立中央病院と県立西宮病院の統合です。
- 西宮市立中央病院と県立西宮病院を統合する候補地として駅前ゾーン2.6ヘクタールを市の外郭団体が購入する。
- 病院の統合が2020年3月までにまとまらない場合は開発業者で土地所有者企業情報|アーク不動産株式会社が同額で買い戻す。
今村市長の折衷案は案としては良いものです
西宮市立中央病院の建物は昭和50年竣工でかなり老朽化が進んでいるのです。加えて病床数は257床、高度医療を行う大型病院にしては少なく、地域密着型の小規模病院にしては多すぎる、中途半端な規模なんです。
今村市長は自身のホームページで以下のように言っています。
今の規模では高度な医療ができないために医師・医療スタッフが確保できない。
高額な医療機器がペイしない。
診療料を絞らざるを得ない。
公的医療を十分に担うことは不可能です。
従って十分な公的医療を提供するためには県立病院との統合しかない。
今村氏のオフィシャルサイト今村岳司 活動日記より
西宮市立中央病院と県立西宮病院の主な経営指標を比べると、上記の今村市長の案がなるほどと思えると思います。
完全に明暗が分かれていますよね。
大赤字の原因は病床利用率の低さが原因です。総務省の『新公立病院改革ガイドライン』では、病床利用率がおおむね過去3期連続70%未満の病院については、病床数の削減などの抜本的な見直しを検討すべきとされています。
県立病院との統合で市立病院の医療の存続を図る。
という意図だと千日は考えます。
今村市長を飛び越しての統合案
なお2015年12月15日、西宮市議会は県立西宮病院と西宮市立中央病院との統合を兵庫県に求める意見書を全会一致で可決し、井戸敏三兵庫県知事に提出しました。
2016年1月19日、県は統合に向けて従来の意見交換会を発展させた委員会を兵庫県と西宮市で設置することを検討するとして前向きな姿勢を示しています。
しかしこの知事の回答は市当局を飛び越して市議会に送付されており『市議会から市当局に報告するように』との異例の付言があったようです。
どうも県は今村市長の政治手法を良く思っていないようですね。
井戸知事は東京大学法学部卒業の官僚出身。今村市長は京都大学法学部卒業でリクルートを僅か1年で退社してから西宮市議に無所属で立候補、最年少の26歳でトップ当選。さもありなんです。
https://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201601/sp/0008734497.shtml
県立病院と市立病院の統合はある…が、移設は無い
西宮市からの熱烈なラブコールですが、県立病院の反応はクールです。以下は市長案(統合とアサヒビール跡地への移設)に対する兵庫県の当初の回答です。
2018年度までの第3次行政構造改革プラン(行革プラン)に定められておらず、病院整備のための財源確保や経営面で厳しい状況にある。しかしながら、問題解決のため、両病院の諸課題について現状を把握するための意見交換会を始めることにしてはどうか。
一言で言うと、『考えとくわ』ということです。
なんだか冷たい?
そんなものです。県と市はいわば、顧客を同じくするライバル企業のようなものなんです。メリットがあれば協力する。メリットが無ければ、相手の出す条件次第。そういう関係なんです。
移設については兵庫県にメリットは無い
千日が『兵庫県立西宮病院の移設は無い』と言い切る理由は兵庫県に全くメリットが無いからです。それは両病院の建物の沿革を見れば一目瞭然です。
西宮市立中央病院の建物は完成から既に40年経過しています。病院の建物(鉄筋鉄骨コンクリート)の税法耐用年数は39年です。すでに耐用年数を超えているんです。加えて昭和50年の当時の耐震性能、阪神淡路大震災で大きなダメージを受けた建物です。
兵庫県立西宮病院の建物は建設中に震災に遭いましたが、その後平成12年に改修と耐震補強工事を行いました。それからまだ15年しか使っていないんです。わざわざ今のタイミングで西宮市の用意した土地に引っ越しする必要なんてありません。
病院の統合は建物を一緒にしなくてもできます。
従って、
- 統合の可能性はある(メリットがある)
- 移設の可能性はない(メリットはない)
これが兵庫県の回答です。
統合相手を県立病院だけに執着する必要はない
公同士が安心という気持ちはわからないでもないですが、どうしても県立病院でないとダメなんでしょうかね?民間の病院との統合じゃダメなんでしょうか?
加古川市民病院(兵庫県加古川市)と神鋼加古川病院(株式会社神戸製鋼所)の統合は、公と民の病院が統合した実例です。神鋼加古川病院を加古川市民病院が譲り受け、医師不足から経営難に陥った加古川市民病院が統合しました。
この統合によって加古川市民病院の内科医は統合前の1名から13名に増員でき、地域医療の提供機能を維持できたといいます。また、総合新病院は600床規模で大学が医師派遣に協力的になりました。
検討期間が長びくツケは西宮市民が払う
検討期間は2020年までの5年間です。統合が実現しなければ、55億円で購入した土地をアーク不動産が買い戻すことになります。
2020年までに統合の話がまとまらなければ、開発業者のアーク不動産が買い戻すから税金は出ていかない?
一見お金が行って戻ってくるだけのように見えますが、それは違います。
アーク不動産は開発土地を銀行借り入れ資金で購入しています。つまり、塩漬けになっている期間は銀行に利息を払い続けるんです。利息は年2パーセント位でしょうか。
単純に計算してみましょう。
10ヘクタールの約4分の1の2.6ヘクタールの代金は55億円でした。
ということは、10ヘクタール全体の土地の代金は単純計算で220億円位ということになります。ただし、西宮市が購入したのは駅前の一番良い場所ですので、全体では100億円と考えます。
100億円はほぼすべて銀行借り入れです(アーク不動産のメインバンクは三菱UFJ銀行)。これに年間2%の金利が5年間。銀行に払う利息はいくらでしょうか?
100億円×0.02×5年=10億円が利息です
西宮市がアーク不動産に払った土地代金55億円のうち10億円は、まず利息の支払いに消えるということです。
銀行の独り勝ちです。
そして、アーク不動産は払った利息をどうやって回収するか?マンション販売会社に土地を売却する際に余分にかかった利息10億円をオンするんです。
マンション販売会社はどこにオンするか?……お客さん=将来の西宮市民ですよね。
まとめ
今村市長は県立病院との統合を強く押し出していますが、統合と移設は別の問題です。
前市長を攻撃した『時代遅れの無駄遣い』『民間の資金とアイデアで開発するべき』という言葉がそのまま今回跳ね返ってきているように思います。
利息分を無駄遣いし、勝ち目の薄い交渉のために5年間にわたり民間開発の足を止めようとしているわけですから。
- 2016年8月28日あとがきに写真を掲載しました。
- 2018年4月1日に三菱東京UFJ銀行が三菱UFJ銀行に行名を変更したのに伴い行名を更新しました。
以上、千日のブログでした。
《あとがき》
2016年8月28日の開発地を同じアングルで写真に撮影しました。
開発地を南北に走る道路と街灯が出来ていますね。これは病院建設が決まったからではなく、当初の開発事業計画に基づくインフラ工事です。
つまり病院の統合にかかわらず決まっていたものです。
道路等のインフラ資産は最終的に西宮市に譲渡されるでしょう。
2016年8月28日
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