追い突きは拳による攻撃だけでなく、ほぼ全ての動きの基本です
空手の稽古で行う前屈立ちからの追い突き
- 前屈立ちの姿勢で半身になる(左右どちらが前でも可)
- 後ろの拳を腰に溜め、前の拳は自然に膝の方へ垂らす
- 前の膝の力を抜き、後ろの脚を引きつける
- 腰を回転させながら前に踏み込み、拳を放つ
⒈空手の前屈立ち
⒉後ろの拳を腰に溜め、前の拳は自然に前に垂らす
⒊前の膝の力を抜き、後ろの脚を引き付ける
- 床を蹴る反動で上体がブレ、初動の『起こり』を相手に知らせてしまう
- 脚を伸ばす反発力で腰を浮き上がらせてしまう
- 脚が力んで反応が遅くなる
初動の起こり=テレフォンパンチ
静止した状態から物を動かすのは動いている物を動かすよりも大きな力が必要です。床を蹴るのはその初動を自分の脚の力で行うということです。
早く動くには、一旦力を溜める反動が必要です。これを初動の起こりといい、相手にこれから動くことを予告してしまうのです。ボクシングではテレフォンパンチといいます。パンチを打つよと電話て伝えてから打つ、という皮肉です。
飛び跳ねる=着地点をコントロールできないリスク
脚を伸ばす反発力で腰が浮き上がってしまう=半ば宙に浮いている状態です。ピョーンと跳ねるように動いているということです。
空中に跳んでいる=放物線を描いている=着地点を自分でコントロールできない
跳んだ時から相手が前に出て来たら、自分の攻撃は詰まってしまうんですね。これはリスクです。
早く動こうとするあまり脚が力んでしまう
詳しくは、前蹴りの記事空手の前蹴りで覚える武道的な身体の運用について - 千日のブログ 家と住宅ローンのはてな?に答えるに書きましたが、初動の大きな力で足を伸ばすため大きな力が脚にかかります。脚には大きな筋肉がついていますが、これが逆にブレーキになってしまうことがあるんです。
前の膝の力を抜くメリット
- 力を『抜く』ので初動の起こりが無い
- 力を『抜く』ので腰が浮き上がらない
- 力を『抜く』ので力まない
初動の力仕事を重力にやらせる
前の膝の力を抜くと重力で前に腰が落ちようとします。初動に必要な力を自分の脚ではなく、重力にやらせるんです。落ちるのに力の溜めは不要ですよね、ノーモーションで初動を始めることが出来ます。
それに、自由落下って意外と速いんですよ。
- ウサイン・ボルト選手のスタート 4.01m/秒
- 横綱白鳳の立合い速度 4.02m/秒
- 160㎝の自由落下の速度 5.6m/秒
蹴るより『抜く』方が速いということが、お分かりいただけたかと思います。加えてモーションが無いんです。動きから初動を読まれることがありません。
跳ねるのではなく『斜め下前方に落ちる』=着地点を決められる
また、重力を使って落ちるので少し体が沈みます。ピョーンと跳ねるんじゃないです。軸足に重力を感じながらの移動です。
ニュアンスとしては、斜め下前方に落ちる感じです。
軸足に重力を感じながらの移動だと、後ろ脚の着地点を動き出した後から変更・調節できるのです。
力みがない=引き付けた脚を自由に変化させられる
例えば引き付けた脚をそのまま抱え込んで前蹴りに変化させることもできます。前のブログを読んだ人なら、ここまでの身体の運用は前蹴りとほぼ同じだということがお分かりいただけると思います。
これは同時に相手にとって、引き付けた状態からどのように変化するのか、非常に読みにくい動きになるということです。
⒋腰を回転させながら前に踏み込み、拳を放つ
デンデン太鼓ってご存知でしょうか?昔の子供のおもちゃです。
下のイラストのような形をしてます。棒を手でくるくる回転させます。ヒモの先のオモリが回転によってバチになって太鼓を鳴らす仕組みです。
これが突きの原理です。腰の回転を突きのエネルギーにするんです。
- 腕はヒモのようにダランとリラックスさせます。
- 腰の回転に遅れて腕が伸びるようなイメージです。
- 着地=踏み込みをした瞬間が突きの腕を突き切った状態です。
- 腕を突き切った状態=フィニッシュです。全身の筋肉を緊張させます。
- 即座に力を抜いて筋肉をリラックスさせます。つまり初めに戻ります。
すり足についての補足
足で床を蹴って動くのではなく重力を利用する、武道的な身体の運用について解説しました。
あえてこの記事で言及しなかった『すり足』という武道全般で行われる進退の方法は、この記事で解説した重力を利用した体重移動による踏み込みを行うことで自然と行われます。
すり足とは、足を引きずることではありません。
意識的にすり足をしようとすると、足に意識が向きますので、本質的な身体の運用が後回しになってしまいます。
まとめ
このような武道的な身体の運用について書くと『最強は何?』みたいな話題を期待する人がいるかもしれませんが、千日の興味はそこではありませんし、それを証明する素養もありません。
しかし今回のブログで書いた身体の運用はボクシングのフットワーク、剣道の試合で見る脚の動きとは全く異なる事に疑問を持たれるかもしれませんね。
昔の仕合はマットや床のようなフラットな足場ではなく、でこぼこした地面、傾斜地、岩や樹木などの障害物のある場所で行われることが多かったと思います。
千日が興味があるのは、そんな状況下で『しくじったら死』という過酷なゲームを生き残った、昔のトップアスリート達が推すスタイル=武道的な身体の運用なのです。
用法用量を守ってお楽しみ頂ければ幸いです。