割れる日銀の金融政策決定会合の行方
どうも千日です。ニュースによると9月9日の昼ごろから黒田日銀総裁が首相官邸で安倍晋三首相と会談を行ったそうです。
黒田総裁は会談後「次回(9月20、21日)の金融政策決定会合で(金融政策の)総括的な検証をするので、それを説明した」「首相からは金融政策に関し特に指示はなかった」と語っています。
2016年9月12日、東京株式市場の日経平均株価は、前週末比200円安の1万6700円台後半で下げ渋り。
来週の日銀金融政策決定会合での憶測や、前週の欧州中央銀行(ECB)理事会で新たな施策が打ち出されなかったことに対する失望感から、依然として債券利回りは上昇していますね。
注目は9月21日の日銀会合後の黒田総裁の会見ですね。皆んな=市場が注目するのは、どんな総括が行われるかです。
割れる日銀審議委員
日銀は2%の物価安定目標にコミットしてます。しかしその政策を決定する9人の政策審議委員の間で意見が3つに割れているのが現状なんですよ。
- マイナス金利支持派:黒田総裁ほか数人
- 国債購入の量を重視するリフレ派:岩田副総裁ほか数人
- 追加緩和反対派:佐藤審議委員と木内審議委員
つまり日銀としての「総括」を出すことが難しい状態ということです。
それにしても、この写真見てると何か思い出しませんか?
9人グループで紅一点あり。
サイボーグ009ですね!
マイナス金利推進派の筆頭、黒田総裁はリーダーなので009。
リフレ派の岩田副総裁は、顔の感じから006(火を吹くメタボ張々湖)。
追加緩和反対派の佐藤審議委員は008(泳ぎが得意そう)で木内審議委員はベビーフェイス001(赤ちゃん)。
といったところでしょうか。
もちろん紅一点の政井審議委員は003(元バレリーナのフランソワーズ)です。
日銀は大丈夫か?
おそらく安倍首相が黒田総裁を呼んで聞きたかったのは「チームをまとめてちゃんと総括出来るの?」という、その一点です。
日銀の委員会は専門家や学者の集まりです。具体的に議論される内容を理解するのは至難の業ですから置いとくとして「総括できない」というのが一番まずいんですよ。
前日のブログでも書きましたけど、低迷する経済をどうやってハンドリングしたら良いのか?という命題に対する、確固たる答えを持ってる人なんていないのが今日本が置かれているポジションです。
ですから、何とかうまい具合に低空飛行でも維持していかないと不味いんです。政府の消費増税延期がその最たる例です。
安倍首相が聞きたかったのは「総括するとか言ってるけど、意見が割れてるらしいじゃん。ちゃんと総括出来るの?」
という一点なんです。
黒田総裁は「出来ます」と答えたはずです。
それしか答えは無いからです。
何で日銀の中で割れるのか
そもそも、何で日銀の政策審議委員で見解が割れるのか?そこに思いを馳せてみたいと思います。
日銀には、公約している1つの目標があるんです。2%の物価安定目標です。
2%の物価安定目標という共通の目標
日本銀行法では、日本銀行の金融政策の理念を「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」としています。
物価の安定が大切なのは、それがあらゆる経済活動や国民経済の基盤となるからです。
そこで日本銀行は2013年1月に「物価安定の目標」を消費者物価の前年比上昇率2%と定め、これの早期実現にコミットしているんです。
つまり、日銀の審議委員たるもの、この目標抜きに審議は出来ません。
心中「そんなの無理」と思っている委員もいるかもしれませんけど、審議は「2%の物価安定目標を達成する為に」という前提無しには相手にされないんですよ。
事実認識の相違
議論の仕組みを分かりやすく図式化したトゥールミンモデルというものがあります。
データは客観的な事実認識です。
データに基づき価値判断が行われ主張が生まれます。
理由付けはデータから主張への結びつきの妥当性を表すものです。
3つに割れた主張をこれに当てはめてみれば、一目瞭然に分かります。
データは同じ
9人の委員が入手するデータは同じです。日銀の中枢ですから、我々が入手出来ないような情報や分析データを手にしているでしょう。
理由付けも同じ
理由付けは、これも同じです。目の前のデータの結果としてそれぞれが主張する政策の理由付けは、日銀の目標である『2%の物価安定目標』です。
主張は『2%の物価安定目標を達成する為』という共通認識の基に派生していくんですよね。
これを無視して委員会の議論に臨むことは許されません。
主張だけ異なる
同じデータに基づき、同じ理由付けから導かれる主張は同じはず、と思いきやそれぞれ異なっているということです。
- マイナス金利支持派:マイナス金利政策には副作用もあるが、効果が副作用を上回るならマイナス金利政策をさらに拡大し推し進める。
- リフレ派:国債購入による資金供給量(マネタリーベース)拡大に比重を置く。現に資金供給量を増やしたことで円安・株高を招き、企業や家計のデフレ心理を改善出来た。
- 追加緩和反対派:さらなる緩和策は銀行の利ざや縮小などの副作用が大きいので金融緩和には反対。
議論は平行線
- 同じ物を見ながら見ているモノが異なる=事実認識の違いが議論の平行線をもたらす。
何が言いたいかと言いますと、審議委員じゃ無くても、この議論が平行線を辿っていることが分かるってことです。
サイボーグ009に例えてみましょう。当然彼らの目的は世界の平和で共通してます。
リーダーの009は宿敵と真っ向から闘おうと言いますが、001と008の2人はそんな強硬手段に出たら敵を刺激して被害を拡大するだけだと強く反対している。
そして006と002はそもそも違う方向性を主張している。
バラバラですね。
チームとして同じ目的を持ち、同じ敵に対しているのに何でこうも違ってくるのか?
つまりそれはそもそもの事実認識が異なるということだと、千日は思います。
それぞれのバックボーンで異なってくる事実認識
黒田総裁は東大法学部を卒業してから大蔵省に入ってずーっと官僚としてキャリアを積んで来た人です。
これに反対している佐藤審議委員はモルガン・スタンレー証券出身、木内審議委員は野村総研出身の実務家です。
そしてリフレ派筆頭の岩田副総裁は大学教授なんですよ。こんな本も出してます。
信念がストレートにタイトルになってる…
そりゃ纏まらないですよね。議論は平行線を辿るべくして辿っているんです。
それでも総括しなければならない
だからといって「じゃそれぞれの方法でやろうか」と言う訳にはいかないんですよ。
それは、日銀が市場との対話を放棄するのと同じことだからです。仮に各委員の意見併記にとどまった場合、市場は金融政策の方向性を読めず、今後日銀が出すアナウンスが市場にダイレクトに反映しなくなる危険性があるんですね。
そうなると、日銀がコミットしている2%の物価安定目標はさらに遠のくでしょう。
安倍首相が黒田総裁と対談したのには、こういう含みがあるんです。
具体的な内容は置いとくとして、少なくとも総括はしてくれよ。
まとめ
各委員はそれぞれの主張は一旦横に置いておいて、一旦は「総括する」という使命があるんです。この総括検証は、金融政策の方向性を占う試金石として市場の関心を集めています。
各々が描いた絵と異なる結論は本意ではないかもしれません。
しかし、総意を表明出来ないことに対する市場の失望は今後の金融政策に遥かに大きなダメージを与えるでしょう。
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以上、千日のブログでした。
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