修繕積立金は積立て不足になるようになっている
どうも千日です。多くのマンションでは分譲当初の修繕積立金の設定金額が低く設定されています。売りやすくするためです。だいたい㎡あたり100円ほどの設定になっていることが多いです。
これが実際は低すぎるんです。
そこで、国土交通省は2011年に「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を発表しています。目安として、新築時から少なくとも㎡単価200円程度は必要だという目安が示されています。
つまり、売り出し時の修繕積立金の2倍くらいが妥当なラインということですね。
この修繕積立金について千日の住宅ローン無料相談ドットコムにご相談を頂きました。ご相談者はハンコを押す直前にこの修繕積立金が増えるだろう、と聞いて不安になり、メールをしていただきました。
今回はスピンオフ企画として、千日のブログでお答えしたいと思います。
- 修繕積立金は積立て不足になるようになっている
5年後には1.5倍、10年後にはさらに1.5倍…このマンションを買って大丈夫ですか?
居住予定の家族の年齢と年収 | 30代前半400万シングルマザーです。子どもは7歳と10歳です。 |
自己資金の額 | 預金額は現金約900万 |
物件価格 | 2180万円 |
物件のタイプ |
築15年中古マンション 3人家族で80㎡と広めですが売主の方が売り急いでいたため、周りの相場よりは安めであったことや、間取り、管理費4000円+修繕積立金6000円で合計1万円程度と安いことが決め手でした。 |
借入予定額 | 未定 |
住宅ローン |
フラット35 |
相談内容 |
契約日に修繕計画を確認したところ、5年ごとに50%ずつ修繕積立金が上がることがわかりました。それを見せられた時はとてもためらったのですが、ついその場の雰囲気に流されハンコをついてしまいました。 自宅で計算してみると本年度から3000円、5年後からさらに4500円、10年後からさらに6750円と当初より14500円/月も上がることがわかりました。 当初の想定では住宅ローンの返済6万円程度+1万円程度の管理費修繕積立金で、今の家賃6万円+1万円くらいと思っていたのですが、修繕積立の値上がりや固定資産税など当初の計算に入れ切れていない部分があったことを契約後後悔しています。 |
周りや仲介業者さんからは5年から10年くらいで売却したり、賃貸に出せば(同じ部屋が現在12万円で賃貸されています)と言われました。
売却の場合、今から不動産価格が下落すると言われている中、購入が現在の相場より少し安めだったとはいえ、諸経費+ローン残債の売値がつく保証はありません。
修繕積立の値上がりも売却時はマイナスになる可能性もあります。 また、その時期がちょうど子供たちは受験、進学、思春期など環境の変化が難しい時期にもなります。
売値によっては、貯金を使い大学進学がギリギリになる可能性もあります。
手付金200万円は返ってこない
手付金を200万円払っていますので、それは戻ってきません。
千日さんのブログで購入は現役時代にリスクを、賃貸は老後にリスクを持ってくることだとありました。
200万円を今捨てることとなりますがこの判断は間違っていないでしょうか?
キャンセルする場合、仲介の方や、ご事情のある売主さんにも申し訳ないのですが。手付け解除があと数日に迫り、契約からずっと悩み続けております。
アドバイスお願いいたします。
まず無理なく買える家か?を判定します
私の著書の家を買うときに「お金で損したくない人」が読む本の第2章で書いている無理なく買える家か?を把握することから始めましょう。
シミュレーションのルールは以下の4つです。
- 毎月の返済は手取り月収の4割以下でボーナス払いなし
- 返済額が一定になる元利均等返済方式
- シミュレーションの金利は固定金利(2018年フラット35の予想金利は1.38%)
- 定年時のローン残高は1000万円以下
固定金利を1.38%とすると、月収と年齢でざっくりとした目安をつくることが出来ます。下表は頭金ゼロで購入できる家の値段の表です。言い換えれば無理なく返済できる住宅ローンの金額ということになります。
(単位:万円)
年齢/月収 | 15万 | 20万 | 25万 | 30万 | 35万 | 40万 |
25歳 | 1997 | 2663 | 3329 | 3995 | 4661 | 5327 |
30歳 | 1997 | 2663 | 3329 | 3995 | 4661 | 5327 |
35歳 | 1997 | 2663 | 2972 | 3535 | 4125 | 4714 |
40歳 | 1997 | 2357 | 2630 | 3043 | 3550 | 4057 |
45歳 | 1768 | 2029 | 2263 | 2515 | 2934 | 3354 |
前提条件:元利均等返済、ボーナス払いなし、定年60歳、固定金利1.38%
月収20万円35歳の部分は2663万円です。無理なく完済できるレンジ内に入っているということです。
また、住宅ローン控除の所得による上限の目安は約20万円です。ほぼレンジ内であり無駄の無い借入額であると言えます。
フラット35の長期固定金利で、今の賃貸の家賃プラス1万円という目安は地に足のついた判断であったと思いますよ。不安に思われているのは修繕積立金の増加にかかる部分ですね。
修繕積立金は今後どれだけ上がっていくのか?幾らが妥当なのかをシミュレーション
現在の修繕積立金は6千円です。80㎡で6000円ということは、1㎡あたり75円ということですので、確かに安いですね。冒頭に述べた平均を下回っています。
これに対して国土交通省があるべき、と言っている目安は平米あたり200円前後ということです。つまり、80㎡であれば16000円が本当は妥当な金額ということです。
つまり、長期修繕計画で、段階的に上昇させていく計画というのは現実的な計画といってよいと思います。
しかし、少し保守的に振れ過ぎている部分もあると思いました。
では、実際にご提示いただいた長期修繕計画書をレビューしてみましょう。
修繕積立金の不足がどれだけあるのか?
- 黄色の棒グラフは修繕工事費の累計を表しています。
- オレンジの折れ線グラフは現状の修繕積立金の累計を表しています。
折れ線グラフ(修繕積立金)が棒グラフ(修繕工事費)を下回っています。
つまり、全然足りないんですよ。
これはグラフには表していませんが、2017年の第一回目の大規模修繕工事は借入金も駆使して完了させています。その借入金はその後10年の分割で返済するようになっていますね。
その借入金を返済するためと、2032年の2回目の大規模修繕のために修繕積立金の値上げを提案されています。
修繕積立金を段階的に値上げしていく案
- 黄色の棒グラフは修繕工事費の累計を表しています。
- オレンジの折れ線グラフは現状の修繕積立金の累計を表しています。
- 紫の折れ線グラフは管理会社提案の修繕積立金の段階的な値上げの累計を表しています。
値上げの案は以下の3段階となっています。
- 2017年~2021年は現在の1.5倍に値上げ:6000円→9000円に値上げ
- 2022年~2026年はさらに1.5倍に値上げ:9000円→13500円に値上げ
- 2027年からさらに1.5倍に値上げ:13500円→20250円に値上げ
どうでしょうか?紫の折れ線グラフは後半で黄色棒グラフ(修繕費用)の遥か上を行ってますよね。
余裕があり過ぎじゃないですか?
つまり、やり過ぎなんですよ。もちろん、そのくらいの余裕があった方が安心かもしれませんけど、提案されている値上げのレベルは国土交通省が出している平均的な金額を上回るものになっています。
㎡あたり200円前後ですから、80㎡では16000円くらいですよね。提案では最終的に20250円にしようとしているんですから、4250円、約26.6%ほど国土交通省の目安を上回っているんです。
現時点では、過度に保守的な計画と言ってよいと思います。
後述しますが、管理会社は、大規模修繕の工事費が高くなればなるほど、多くの利益を得られる立場にあります。彼らを儲けさせるために必要な金額よりも多くの額を修繕工事のために確保する必要があるんでしょうかね?言いなりになって、損をするのは我々です。
折衷案(現状と提案の間くらい)が現実的
- 黄色の棒グラフは修繕工事費の累計を表しています。
- オレンジの折れ線グラフは現状の修繕積立金の累計を表しています。
- 紫の折れ線グラフは管理会社提案の修繕積立金の段階的な値上げの累計を表しています。
- 茶色の折れ線グラフは提案を少し下方修正した千日太郎による折衷案での値上げの累計を表しています。
折衷案の値上げの案は以下の2段階にとどめます。
- 2017年~2021年は現在の1.5倍に値上げ:6000円→9000円に値上げ
- 2022年~はさらに1.5倍に値上げで据え置き:9000円→13500円に値上げ
どうでしょうか?茶色の折れ線グラフでも、ちゃんと長期修繕計画の修繕工事費用を賄えるだけのお金を積み立てることが出来るでしょ?
13500円が妥当かというと、1㎡あたりでは168.75円です。国土交通省の目安とする200円には少し足りない感じですね。
もしかしたら、足りなくなる可能性はあります。あくまでこれは見積もりだからです。
修繕積立金が足りない分をどう補うのか?
足りなくなった場合に、問題となるのが、大規模修繕の工事資金をどのように工面するかということです。
修繕積立金が潤沢に貯まっている管理組合は稀です。さっきの『提案』みたいな、貯め過ぎは横領のリスクもありますので、会計士としては、あまりお勧めはしませんね。
こちら横領を防止するための、決算書の監査方法です。知識ゼロでもできるように分かりやすく書いています。
なので、足らずの部分については…
- 組合員(区分所有者)に一時金の支払いを求める。
- 管理組合が銀行から借り入れをする(修繕積立金を値上げして返済をする)。
- 工事範囲を縮小して工事金額を抑える。
- 以上の1~3の方策を組み合わせる。
このいずれかとなります。
このマンションは第一回の大規模修繕については2.銀行借り入れを使っていますよね。これを返済するためにまず値上げしているんです。
1.一時金の徴収ポイント
工事費用を管理費負担の割合と同様に按分して一時に支払う方式です。
一時に大きな額を支払うのが大変な家庭も少なくないので、 一時金を徴収する場合には、分割払いも検討すべきですね。
大規模修繕工事の代金を工事会社に支払う時期は、契約、中間、完工で少なくとも3回に分割払いするのが普通です。
これに合わせて、区分所有者が組合に払う一時金の分割払いを設定すれば、区分所有者の負担が少しは軽減されるものと思います。
また、管理組合の収納口座・保管口座を設けている銀行等に対して、区分所有者が支払う一時金に対する融資が可能であるか確認・折衝し、区分所有者に案内してあげる努力も必要と思います。
2.銀行から借り入れる際のポイント
管理組合が金融機関から借り入れをし工事費用を支払い、後から各戸の修繕積立金を増額して、組合が金融機関に毎月返済していく方式です。
独立行政法人住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)の管理組合向けのローンがありますので、これを利用するケースが多いです。
住宅金融支援機構からの借入条件を満たさない場合には、民間のローン会社・リース会社からの借り入れを検討することになりますが、信用・規模・業歴のある会社を選ぶことが大事です。
3.工事範囲の縮小と管理会社へのけん制
そもそも、管理会社というのは、大規模修繕の工事費が高くなればなるほど、多くの利益を得られる立場にあります。
そのため、本来必要のない工事も含めて長期修繕計画の基本計画を提案してくる管理会社も少なくありません。この基本計画を承認するのはお金の無駄遣いでしかなく、管理組合も居住者も大きな不利益を被ってしまいますよね。
そもそも、最初の段階では…
- 管理会社の受け取る管理費は高めに
- 我々にツケがくる修繕積立金は低めに
4.一時金と借り入れの併用
工事費用の半分は一時金、残り半分は借り入れで賄うようにすれば、一時の負担と毎月の修繕積立金の増額を低減することができますね。
資金繰りと言う側面からは、支払が偏らないように工夫することが大事です。
プロが教える長期修繕計画の資金繰りポイント
では、この長期修繕計画を実行していく上でのポイントをプロの視点からまとめておきましょう。
1.将来の資金計画も考慮すること
大規模修繕工事の資金調達を考えるときに考慮すべきことは、当然、今回工事の範囲・価格といったことが中心になりますが、それだけではなく、次回の大規模修繕工事の資金調達をどうするかという、将来のことも考えておく必要があります。
2.管理コストの削減
区分所有者から一時金を徴収して大規模修繕工事を乗り切っただけでは、次回の大規模修繕工事の際にも同じ苦しみを味わうことになります。
修繕積立金を増やすために管理コスト削減に着手するのです。
また、資金調達に金融機関からの借り入れを導入した場合、返済のために各戸の修繕積立金を増額しなければなりませんが、完済後も各戸の負担する修繕積立金額を変えなければ、その後は、当然のことながら、それまで返済に充てた分が積み立てに廻り、次回の工事はずっと楽になりますね。
3.自治体の助成金や補助金上手に利用しよう
管理組合が実施する大規模修繕工事には、公共団体からの助成金が出る場合があり、これを利用しない手はありません。時期や地域、マンションの状況によって異なりますので、常に行政の動向・制度に目を配ることが必要です。
助成の予算がついたときに合わせて工事を実施するといった感覚も重要なのです。
金融機関からの借入利子への補給や連帯保証料への助成などがその例です。個人レベルでもこうした補助金はありますよね。
まとめ~マンションの価値には2つの面がある
マンションの資産価値の多くは、立地と消費財としての建物の資産価値ですが、もう一つ忘れてはいけないことがあります。
共同住宅という特徴上、マンションの住民によって作られるコミュニティもまたその価値を形成するということです。
千日はマンションの価値には、2つの価値があると考えています。
- 消費財としての価値=物理的な建造物としての価値(立地も含む)
- コミュニティの価値=管理組合のレベル
修繕積立金は上がっていくのは損な感じがあるでしょう。でもマンションの価値を維持していくのに必要な費用なんですよね。そして、それは自分の力の及ばないところで勝手に決まるのではなくて、自分もまた、管理組合のメンバーとして発言する権利、議決権を持っています。
これからのマンションの価値は自分=住民次第、という面もあるんですよ。
管理組合の総会には必ず出席し、管理会社が自分の懐だけ儲かるようにしようとするのをちゃんとけん制し、主体的にかかわっていくようにすれば、マンションの価値を高く維持できます。
以上、千日のブログでした。
《あとがき》
ご相談への回答としては、修繕積立金の値上がりというのは、あくまで管理会社の提案してきたものであって、それをそのまま飲むわけじゃないですよ。ということです。
ただ、今の6000円という修繕積立金の水準は低すぎて、マンションの価値を最低限維持するための修繕を行えないレベルです。上がることはある程度覚悟しておく必要があるでしょう。
そして上がるとはいっても、私の折衷案では数千円のアップです。そこまで不安になる必要は無いかと思いました。
千日のブログで紹介しているマイホームの購入と住宅ローンのノウハウを一冊にまとめたのがこちらの本です。
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30代600~1200 | 40代600~1200 | 50代1000以上 | ||
20代800以上 | 30代1200以上 | 40代1200以上 | ||
借り換え | 20代借換 | 30代借換 | 40代借換 | 50代借換 |
団信 | 20代団信 | 30代団信 | 40代団信 | 50代団信 |
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