誰のため?保護の対象が「社会」なのか「会社」なのか?
どうも、違いの分かる男、千日です。会社がスタートアップ時期を過ぎて業績や規模が大きくなってくると話題になってくる、公認会計士による外部監査についてです。
会社の決算が粉飾されていたり、お金を横領されていないか?
こうしたことが無いかチェックするのですが、身内で調査しても甘いチェックになるかもしれませんし、外部の人でも専門的な知識が無ければ、何からどう見ていけばいいのか分かりません。
そこで、公認会計士など外部の専門家が会社の財務諸表をチェックすることを一般的に「外部監査」と呼んでいて。いろんなシーンで利用するのですが…厳密な「監査」なのか「財務調査」なのかによってその中身はゼンゼン違うのです!
違いの出るポイントは、
公認会計士によるチェックが「誰のため」にされたものなのか?
という点です。この「誰のため」というところで、公認会計士による業務は「監査」と「財務調査」に分類されるのです。
監査:広く一般の利害関係者(投資家)のため。
財務調査:クライアント(親会社や経営者)のため。
これがお題目なのですが、じゃあ具体的にどう違うの?その違いによってどんな影響があるの?ということを、千日流に分かりやすく解説しましょう。
監査は広く一般の利害関係者の経済的な利益を守るため
まずは監査からです。会社が一定以上のスケールの大きさになると、法律で公認会計士による監査が義務づけられるようになります。
なんでか?
その会社の社会的な存在意義が大きくなるにつれて、その会社によって人生が狂う人も出てくるからです。多くの会社は営利企業ですね。営利を目的として設立された法人です。
会社が大きくなればなるほど、その会社が営利のために取引をする会社や人の数が増えていきます。そして、会社が大きくなればなるほど、一度の取引の金額も大きくなっていきます。
大丈夫、ちゃんと代金を払ってくれるだろう。
大丈夫、ちゃんと商品やサービスを届けてくれるだろう。
こういう前提が必要になってくるんですね。この前提が崩れたら、多くの人が不幸になります。最近の例だと「はれのひ」ですね。多くの新成人から晴れ着やその着付け代金をもらっておいて、成人式当日に雲隠れしました。
経営は火の車だったそうです。これがもっと大きな会社で、一つ一つの金額ももっと大きかったら、もっと大きな社会問題になったでしょう。
世間を欺いていないか?
監査というのは、大企業が公開する財務諸表(決算の書類)をチェックして、それが適正だということを証明する公認会計士の業務です。本当は火の車なのに、すごく儲かっているようにすることを粉飾決算というのですが、それを防止するのです。
粉飾決算というのは、タレントがスリーサイズでサバを読んだり、なんていうのと本質的には同じです。
社会にどれだけの影響があるのか?にフォーカスする
監査では、その数字を見る人がどういう目的で見るのか?いくら違っていたら、どれだけ決断に影響するのか?ということを考えながらチェックします。
タレントに例えれば、
- スリーサイズなら、ミリ単位で違っててもどうだっていい。じゃあ、何ミリから問題になるの?
- 男性か女性かでも違ってきそうだよな?
- モデルか、グラビアか、芸人かでも違ってくるだろう…
- そもそも、印刷のミス?それともわざと?
こうしたことを、会社の数字でチェックしていくのです。
重要な虚偽表示が無いことを証明する
あらゆる嘘やミス(虚偽表示)を発見して直させることが目的ではないんですよ。あくまで、これをそのまま信じた人が経済的な損額を被らないようにすることが目的なんです。
そのまま信じた人をミスリードしてしまうような財務諸表の虚偽を「重要な虚偽表示」と言います。
公認会計士の監査というのはこの「重要な虚偽表示が無い」ということを「証明する」ことが目的です。この証明書は「監査報告書」というペラ1枚の書類になり、財務諸表に添付されて公開されるのです。
社会のニーズでどんどん厳しくなる監査のハードル
この世間的な感覚というのが、難しいところなんですよ。
つまり、線引きです。
タレントの年齢やスリーサイズというような、至極単純な数字でさえ「何センチからアウト」なんて線引きは難しかったと思います。
そんなの人によるんじゃないの?
と思いますよね。しかし、「重要な虚偽表示は無い」というお墨付きを出す限りは、その線引きが必要になるんですよね。
- どこかで線を引かないと、会社も納得しませんし、世間も納得しないわけです。
- 世間を納得させるには、引いた線に合理的な根拠を用意しておかなければならないです。
スリーサイズであれば、多分タレントはこんな感じで反論しますよね。
確かに今はウエスト3センチオーバーしてるけどさ、ひと月前は確かにこのサイズだったんだよね。
だからウソを書いてるわけじゃないよ。
それに、3センチくらいなら撮る瞬間にちょっとおなか引っ込めたら問題ないじゃん?
ほんっと細かい…
そして、最近はどんどんこの線引きが厳しくなっていく傾向にあるんです。
えー!?一か月のサイズの平均って…去年までは一か月以内の実測ならどのサイズでもOKだったじゃん!
これはほかでもない、「世間のこれが普通」という基準が厳しくなってきているからなのですね。
監査を受ける体制も必要
この監査の基準が厳しくなると、それに対応する会社の体制も必要になってきます。
監査報告書で「重要な虚偽表示が無い」ということを会計士に書いてもらうためには、それを確認するために積極的に協力しなければなりません。
例えばさっきのスリーサイズの例では、「1か月のサイズの平均」というのがルールでしたから、毎日スリーサイズを第三者に測ってもらわないとプロフィールを公開することが出来なくなるわけです。
クソめんどくさいです。
協力しなければどうなるか?
タレントが協力してくれなかったから、サイズは測れませんでした。
こんな風に公開されることになります。
つまり「監査」となると、それは本人のためというよりも、世間のニーズに応えるためということだからなんですね。
監査は社会のために受けるもの
事前に経営が火の車であることが分かっていたら、その会社に多額のお金を前払いしたり、大事なプロジェクトを一緒にやったり、というようなことはしません。
商品やサービスを受けられないかもしれませんし、プロジェクトも途中で頓挫してしまう可能性が高いからです。
また、監査報告書が出ないような会社であることが分かっていたら、その財務諸表には「重要な虚偽表示」がある、もしくは「監査に協力しなかった経営者」ということになります。
やはり、取引をしないということになるでしょう。
公認会計士の「監査」というのは、広く一般の利害関係者を守ることが目的です。既に取引している人はもちろん利害関係ありますが、それだけに限りません、これから取引しようかな?と考えている人もこの「利害関係者」に含まれます。
つまり、
- 公認会計士にとっては、社会全体のために行うのが「監査」であり、
- 会社にとっては、社会全体のために受けるのが「監査」なのです。
財務調査はお金を払うクライアントの利益のため
これに対して、財務調査は法律で義務づけられるようなものではありません。「公認会計士にチェックしてもらいたい」と思う経営者や親会社が任意に受けるのが「財務調査」というものです。
例えば、
- 自分の会社の決算が正しく作れているのか、第三者の専門家にチェックしてもらいたい。
- 会社の財務上の問題点を専門家の立場からチェックしてもらいたい。
こうしたニーズもあるのですね。
自分の会社ですから、自分が一番よくわかっている?と思われるかもしれません。しかし、自分で犯したミスというのは自分では気づきようがないです。
また、同業他社と比べてどうなの?という点になると、こればっかりは分からないです。
なので、法律上のマストではないけど、任意にチェックしてもらいたいということで、受けるのが財務調査というものです。
会社経営のサポートをする
財務調査というのは、財務諸表(決算の書類)をチェックして、それのミスを発見したり、作成した会社の問題点を浮き彫りにするものです。
- 業務に無駄はないか?
- 無駄遣いになっていないか?
- 従業員は横領していないか?
本来は、親会社や経営者の仕事です。それを専門家にサポートしてもらうということです。ちなみに、従業員による不正や横領の手口については、だいぶ前に記事にしました。
当時はまだ会計士であることは伏せて完全な匿名で書いてたのですが、今でも「大企業 横領」などのキーワードで検索1位から3位くらいをキープしていて、たまに小さくバズってます。
実際、これを調べているのが従業員なのか?それを疑っている経営者サイドなのか?というのは分かりませんが、やはりみんなの関心ごとではあるのですね。
実は監査でも同じようなサービスを提供します。しかし、それが本来の目的ではなく付随的なものという感じです。
会社経営者のニーズにフォーカスする
財務調査では、会社がどういう目的で調査結果を利用しようとしているか?ということにフォーカスして、そのニーズに応える方法でチェックします。
さっきのように、タレントに例えると、芸能プロダクションのニーズに応えるためのチェックという事になるでしょう。
例えば、
- 食べ過ぎてお腹がタプタプになってないか?
- 悪い虫は付いてないか?
こうしたことをチェックして、マネージャーに告げ口する、みたいな感じですかね(笑)
何が重要か?何が重要でないか?は会社が決める
なので、公表しているスリーサイズが真っ赤なウソなら、芸能プロダクションに告げ口するんです。『ああ知ってるよ、そのくらいならいいんじゃない?』という感じだったらそれで終わりです。
確かに問題は問題です。
だから報告するんです。
しかしそれを世に公表するなんてことはしません。それを決めるのは、本人ないし芸能プロダクションだというスタンスです。
チェックする項目についても、事前に会社と合意して合意した手続きだけを行います。財務調査の目的は重要な虚偽表示が無いことを証明することではありません。
なので、会計士が提出するのは「監査報告書」というようなお墨付きではなく、
- 会計士が行った調査の内容。
- 調査の結果明らかになったこと。
これを逐一詳細に記載した10枚以上の長文の(場合によっては何十枚もの)レポートになります。
調査の範囲ややり方は都度会社と決める
なので、調査で見つかったことは全て報告します。監査のときにあった、線引きというものはありません。
そして、調査の範囲やその方法は事前に会社と合意します。ですから、監査のときのように、世間の見方が厳しくなったからといって、その手続きが厳しくなったりすることはありません。
逆に言うと、会社経営者のニーズによって特定の項目については凄く厳しくチェックするということもできるわけです。
タレントに例えれば、
役作りのために1か月で〇〇キロまで痩せなければならない。
体重をクリアしなければ出演できない。
こんなタレントであれば、毎日の体重はもちろん、食事の内容や時間もチェック対象になるでしょう。
深夜にピザなんか食ってましたよ!
それこそ、24時間監視して真っ先に報告することになるでしょうね。
「監査」であれば、そのタレントが何時に何を食べようと関係ないです。スリーサイズさえしっかり真実を出してくれればそれでいい。それが真実であることを確かめるためのチェックを行うことが第一となります。
しかし「財務調査」ということであれば、世間はとりあえず横へ置いといて、クライアントが何を調査してほしいのか?何を重要と考えているのか?ということが第一になるんですね。
財務調査は会社のためにある
監査であっても財務調査のような側面はあります。その会社の問題点を経営者に知らせて、その会社が良くなっていくことは、皆にとってメリットがありますよね。
これに対して財務調査というのは、100%会社のためにやるものだ、という感じでしょうか。
つまり、
- 公認会計士にとっては、会社のために行うのが「財務調査」であり、
- 会社にとっては、自社のために受けるのが「財務調査」なのです 。
まとめ~違いを知って上手に利用しよう
なので、「公認会計士のチェックを受けた」ということが必ずしも適正な財務諸表であるという証明を受けたことにはならないということです。
それが「監査」としてチェックを受けたのであれば「監査報告書」というペラ1の書類となります。必ず「監査報告書」というワードが含まれています。
それが「財務調査」としてチェックを受けたのであれば10ページ以上に及ぶ「財務調査報告書」というレポートとなります。
「財務調査」のレポートの名前は調査によっても様々ですが前文のところを読むと必ず「監査報告書じゃないですよ」という風に書いてます。
このように書く理由は、普段監査報告書というものを見慣れていない人(そういう人がほとんどだと思います)が、
監査報告書だ!公認会計士のお墨付きだ!
こんな勘違いをしてしまわないようにするための配慮です。
財務調査は前述のとおり、その会社のニーズで行う調査に過ぎないので、これをそのまま信用して損害を被ってしまう可能性があるからなんですね。
これであなたも違いの分かる男(女)になりましたね!
以上、千日のブログでした。
《あとがき》
いかがでしたでしょうか?
…も何も、
多くの人にとっては全く馴染みの無いことだと思います。
ただ最近、千日がこういう説明をする機会がありまして、それを記事にまとめたという感じです。
帰ってから試しに「監査」と「財務調査」がどう違うのか?試しにググってみたんですけど、専門的に書いてるサイトはあるんですけど、そこだけコンパクトに書いてるサイトが無くてですね。
そりゃークライアントもよくわからんだろうな…と思いまして。分かりやすく記事にしておこうと思った次第です。
これが狙ったキーワードで上位表示されれば、私の仕事も少し楽になるでしょう(笑)。
2018年1月20日
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