にわかに定着しつつあるハロウィンに乗る義理の両親
どうも千日の妻です。いつも主人がお世話になっております。
毎年この時期になると、ハロウィンの話題で持ち切りだ。
むしろ大人がコスプレに熱狂するという、日本で独自の進化を遂げたハロウィンであるが、子供の頃にその体験の無いアラウンド フォーティーの私世代からすると、どうにも乗り切れないものがある。
いつもは、ニュースで取り上げられる、渋谷のスクランブル交差点で仮装に熱狂する若者達を目を細めて眺める毎日だった。
が、まさか歳80を超える義父と義母による『仮装』というにはあまりに完成度の低い仮装に刮目することになろうとは…
…などという月並みな文句は私のプライドが許さないのであるが。事の発端は義母の誕生日であった。
仮装してジャンカラに行くと半額
待ち合わせは、義父母の家の近くにあるカラオケボックスであった。夫と一緒にカラオケボックスのロビーで待っていると『仮装割!仮装してジャンカラに行こう!』というポップが目に入る。
夫と「へー、仮装して来れば良かったね」などとそんな気は全く無いのにおしゃべりしていると、現れたのは『仮装』した義父の姿であった。
お義父さん??
舅の顔には、テイクアウト用のコーヒーのプラスチックのフタの真ん中をくり抜いて輪にしたものを2つセロテープで繋げ、輪ゴムを通して耳にかけただけのモノがメガネのように装着されている。
なぜこんなモノを顔に付けて?
ああ、まさかボケてしまわれたのか…?
「どや?ハロウィ〜ンや、仮装すると半額になるんやで。」
とても得意げで言葉もしっかりしている。ああ、仮装かと、少し胸を撫で下ろした。それにしても、この完成度でハロウィンの仮装としてゴーサインを出して良いものなのか?
テレビのニュースで見るゾンビメイクやら着ぐるみなどは、ふざけているように見えて、ある意味とても真面目なのかもしれない。
あまりにもフリーダムな舅のハロウィン仮装に私達夫婦は圧倒され、私は「ドヤ顔で本当に『どや?』と言う人が居るんだ…」とぼんやり感慨にふけった。
それにしても、男というのは歳をとっても、どこかで子どものようなクセが抜けないものだ。さぞかし、お義母さんも苦労している事だろう。
「もうちょっと待ってナ、いまシーちゃん(義父が義母を呼ぶときの愛称)が車を駐車場に入れてるから。」
程なくして現れた姑の顔を見て私は、さらに驚いた。
あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!
お、お義母さんまで…!
姑の両の眉毛には黒々とマジックで塗り潰されたセロテープがイモトのように貼り付けられ、加えて、あろう事か鼻の下にはちょび髭を模した黒いテープがちょこんと貼られているではないか!
「ウフフ、ハロウィ〜ン!」
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
「おれは 奴の前で階段を登っていたと
思ったら いつのまにか降りていた」
な… 何を言っているのか わからねーと思うが
おれも 何をされたのか わからなかった…
頭がどうにかなりそうだった… 催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…
いい大人になっても夫が喜んで読んでいる『ジョジョの奇妙な冒険』の第3部終盤のジャン=ピエール・ポルナレフのセリフだ。
正直子どもの読むマンガにそこまで入れ込む夫をバカにしていたが、今やっとポルナレフの気持ち、既存の概念を根底から覆す他者との遭遇、その根源的な慄きを見事に表現したこのセリフの秀逸さを理解した。
顔は女の命。
そう教えられて来たし、事実そうではなかったか?メイクした姑の顔の上から画竜点睛ヨロシク貼られた黒いセロテープ…
義母は意気揚々とカウンターに立ち受付を始めたが、テープの粘着面が弱くなっているのか、喋るたびに鼻のテープが落ちた。
テープが落ちるたびに、話を中断してテープを拾い、また鼻の下に貼り付けて話し始める、とまた落ちる、というのを何度も繰り返している。
お義母さん、もう仮装の条件は満たしてるから…
そう声を掛けたいが、あまりの事に横から口を挟めない。
夫は?と見るとそんな義母を目を細めて見ているだけだ。
この人達にとってはこれが普通なのか?それとも私が偏狭なのか?
厳格だったという義父のリミッター
夫の両親はかつてとても厳格であったという。特に父親は度を越していた。
一方で義父はよく幼い頃の夫を連れて2人でハイキングに行ったという。良く行ったのは日本のロック・クライミングの発祥地として知られている、芦屋ロックガーデンだったそうだ。
父親と一本のザイルで繋がり、約50メートル程の垂直の崖を親子で登る。
お母さんにはナイショやで。
というのも、そのザイルは父と息子を繋いでいるだけだからだ。
もし息子が落ちても…父親が踏ん張れば、まあなんとかなるかもしれない。しかし、父親が落ちたら?
父子もろとも真っ逆さまである。確かに母親が知ったら半狂乱だろう。
しかし、そんな事を母親に秘密にしてまでやる必要があるのだろうか?否。
クレイジーである。
当時のことを振り返って夫はこう言う。
半ベソかきながら頂上まで登り切って見る景色がきれいだった気もするけど、たぶん他の山頂と同じや。
それとな、降りるのはもっと恐いんやで。ずっと下見るからなぁ。
夫は夫で、子ども同士でそれは様々な危ない遊びをしたそうだが、この父との『ハイキング』が最も危険な遊びであったそうである。
この親にしてこの子あり。
もしも、今後私たちの間に子どもが出来ることがあったとして、夫と子どもを二人きりで遊びにやるのだけは阻止せねばなるまいと、ここに備忘録として残しておくことにする。
それにしても幸せそうだ
どう見ても罰ゲームにしか見えない仮装であるが、2人とも満足そうだ。
受付のアルバイトの娘も初めは面喰らった顔をしていたが、笑っている。
隣の夫もニコニコしている。
そう悪くもないのかもしれない。
私もずっと夫と居るとこうなって行くのだろうか。今は絶対にイヤだが…そのうちこうなって行くのだろうか。
夫の横顔を見ながら「そんな老後も悪くないかな」と思う今日この頃であった…
…なんて月並みな決まり文句は私のプライドが許さないのである。
以上、千日の妻のブログでした。
《あとがき》
このブログは妻の設定で千日が綴った、ごくプライベートな日記です。もちろん妻の検閲は受けていません。
2016年11月1日
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