資本的支出と修繕費の判断に迷ったら
- まず期首の固定資産の残高を調査
- そこから1年間の固定資産の増加と減少を台帳に更新していく作業
- 資産に計上するのか=資本的支出
- 費用に計上するのか=修繕費
この判断が財務書類に与える影響は大きい
総務省のマニュアル
有形固定資産のうち、償却資産に対して修繕等を行った場合には修繕等に係る支出が当該償却資産の価値高め、またはその耐久性を増すこととなると認められるかどうかを判断し、認められる部分に対応する金額を資本的支出として資産に計上します。
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/chikousuijitu/91516.html
分かりやすく図示します
要はこういうことですネ。
- ベースより下からベースに戻すときは修繕費
- ベースより進化させるような改良は資本的支出
固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち、その固定資産の維持管理や原状回復のために要したと認められる部分の金額は修繕費になります。
これに対し、その修理、改良等が固定資産の使用可能期間を延長させ、又は価値を増加させるものである場合は、その延長及び増加させる部分に対応する金額は資本的支出となります。
この判定は修繕費、改良費などの名目によって判断するのではなく、その実質によって判定します。
法人税のホームページでは次のような支出は原則として修繕費にはならず資本的支出となるとしています。
- 建物の避難階段の取付けなど、物理的に付け加えた部分の金額
- 用途変更のための模様替えなど、改造や改装に直接要した金額
- 機械の部分品を特に品質や性能の高いものに取り替えた場合で、その取替えの金額のうち通常の取替えの金額を超える部分の金額
事業用資産の耐震工事の取扱い(国税Q&A)
[Q8] 被災資産以外の資産について耐震性を高めるための工事を行った場合に、その工事に要した費用は修繕費として処理してよろしいですか。
[A] 被災資産以外の資産について耐震性を高めるための工事を行った場合には、原則として、その工事に要した費用は、その資産の使用可能期間の延長又は価額の増加をもたらすものとして資本的支出に該当し、その支出金額が新たな減価償却資産の取得価額となります(法令55、132)。
4 復旧のために支出する費用|お知らせ|国税庁
これに対して、被災した建物について二次災害を防止する為の耐震補強工事は修繕費とされています。
道路などのインフラ資産についてはどうか
道路などのインフラ資産も基本的に考え方は同じです。なお、公会計においては鉄道の線路について適用されている「取替法」は適用できません。
- 道路の舗装を剥がして新しいアスファルトを敷くのは資本的支出
- これに対して道路のひび割れを補修したり、道路表示の白線を引き直すのは修繕費
工事の契約が道路の修繕工事だからといって、全部修繕費にしてはいけません。通常は両方の要素が含まれているものです。
工事内容を確認して、前者に当たる金額を資本的支出とし、後者については修繕費に振り分けなければなりません。
面倒だな…
そうです、面倒なんです。
しかし、インフラ資産の老朽化比率や今後必要になってくる修繕計画を立てる上で有用な情報が固定資産台帳から得られるようになります。
道路の修繕工事の固定資産台帳の更新
道路の修繕工事のうち、資本的支出については固定資産台帳に登録することになります。こういう仕事は今までなかったことなので、どうにか簡単に済ませたいものですね。
だからといって、1年に行った道路修繕工事をまとめて一つに集計して「平成〇〇年度道路修繕工事」なんて項目で記載を一括してしまうのは頂けませんよ。
道路修繕工事を固定資産台帳に記載するイメージを図にしました。補修工事Cは1号線と2号線にまたがって工事されています。固定資産台帳に登録するときは、施工距離又は面積で按分します。
従来の公有財産台帳による管理
従来の管理は上半分の『道路台帳』と『工事台帳』です。
- 道路台帳には全ての道路の記録がありますが、その後の補修工事でどれだけコストがかかったか分かりません。
- 工事台帳にはどんな工事をしたかが工事ごとに載っていますが、工事の記録にとどまります。
また、これらの道路台帳には金額情報が必須ではないため、どれだけのお金がかかったかが不明なものもあるんですね。
二つの情報をうまく合わせれば、道路の老朽化や今後必要な補修工事の計画を立てられるかもしれませんが、それぞれ記録形式の違う台帳の情報を合わせるのはかなり骨の折れる作業でしょう。
固定資産台帳による管理
固定資産台帳ではその取得年月日と金額が併せて記録されることになります。さらに、その後の補修工事はもとからあった道路の枝コードに記録されていきます。
固定資産台帳を正しく登録していくことで、従来なら非常に骨の折れた老朽化比率の分析や補修計画に必要な過去の補修工事のデータが道路の路線ごとにデータベースでサッと取り出せるようになります。
取得年月日も記録されていますから、何年にどれだけ工事したかもサッと取り出せます。
これらの情報は長期的なインフラ資産の補修予算を策定するうえでとても有用な情報になるでしょうね。
それに、固定資産台帳の合計額は自治体が公表する財務書類の貸借対照表の固定資産の合計と必ず一致しますので、その情報の信頼性も同時に確保されているんです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?千日のブログではこういう一般ウケしない内容もたまに書きます。基本的に千日は利己的な動機で記事を書くんですが、この新地方公会計マニュアルも同じです。
少子高齢化によって今後は税収が減っていくことは間違いないでしょう。
減った税収で最低限必要なインフラを安全に維持していくことが、地方自治体に課せられた喫緊の課題なんです。
- 便利で安全な道路
- 便利で安全な橋梁、トンネル
- 上下水道のライフライン
このエントリーは、回り回って最終的に千日の利益になることを念じて、これからも不定期に更新していこうと思います。
以上、千日のブログでした。
千日のブログでは、統一的な基準による地方公会計について、実務を担当する人のために、マニュアルでは記載されていない勘所についてヒントとなる記事を公開しています。
基本的には各自治体で定められた要綱、要領によるのはもちろんですが、その読み方や前提としている会計の考え方について補助的に利用していただければと思います。
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