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【新地方公会計制度3】発生主義に潜む粉飾決算の不正リスクの問題点

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公会計で懸念される発生主義の粉飾リスクについて

どうも千日です。

少し過激なタイトルですが真面目な話です。出来れば新地方公会計制度の実務を担当する方には制度が孕んでいる問題点として一度は読んで貰いたい記事です。

粉飾決算は不正です

粉飾決算とは企業が不正な会計処理を行い財務書類に虚偽の表示を行うことを言います。一般的には実態よりも決算を良く見せるために利益や資産を水増し表示します

逆に利益や資産を小さく表示する粉飾決算もあります。逆粉飾などと呼ばれることがあります。逆粉飾の多くは脱税目的で比較的小さな企業が行うケースが多いです。

もちろんどちらも不正であることに変わりはありません。

不正のトライアングル

不正のトライアングルという言葉があります。以下の3つの要素です。
  1. 不正を働く動機
  2. 不正が可能な環境又は機会
  3. やむを得ないという自己の正当化

企業で従業員や経営者が不正を働く、その一線を越える時の要素です。

新地方公会計制度が生み出す不正の動機

前回の記事で、統一的新地方公会計制度での固定資産台帳に期待される行政コストのスリム化について話しましたね。
行政サービス一人当たりの行政コストが幾らかという尺度です。
他の地方公共団体と比べて利用者一人当たりのコストが多すぎる施設を統廃合していく→行政コストがスリム化出来る。
つまり『自分が勤務している施設が廃止される』というケースが出てくるということです。その尺度になる数字を自分で作っているんです。
  • 愛着ある職場が無くなる
  • 現在のポストを失う
これは十分な不正の動機になります。従来の官庁会計には施設の統廃合の参考になりませんでした。しかし複式簿記と後述の発生主義による新公会計になることで、施設の統廃合の意思決定の参考になるのです。
 
例えば具体的に『年間の利用者一人当たりの行政コストが10万円を超える施設は廃止する』という方針が出されたらどうでしょうか?
 

発生主義に潜在する不正リスク

総務省が平成27年1月に公表している『統一的な基準による地方公会計マニュアル』では従来の現金主義会計に加えて発生主義会計を取り入れることが明らかにされています。
 
現金主義会計とは収益及び費用を現金の入金•出金時点で認識する会計処理です。
発生主義会計とは現金の入金•出金に係わらず、取引の確定時点で認識する会計処理です。
 
現金主義会計は現金の『入金出金』という具体的な出来事ですが、発生主義会計は取引の『確定』…抽象的ですよね。
 
現金主義判断の余地は無いです。出金があれば費用。無ければ費用じゃない。それだけです。
 
発生主義には判断が入ります。出金が無くても取引が『確定』していると判断したら費用。取引が『未確定』と判断したらまだ費用じゃない。
 
これがどんな局面で問題になるのか?まだあまり言われていませんが以下のやり取りをご覧ください。
 
 

とある公共施設での決算

主査『課長、今年の行政コスト計算書の速報値が計算出来ました』 

 
課長『おおお出来たか!で、利用者一人当たりの行政コストは?10万円超えてへんやろな?それが一番大事やろ』 
 
主査『四捨五入して99,999円。ギリギリセーフです』 
 
課長『危なかったな〜!去年は10万円超えてしもたから、今年も超えてたらいよいよこの施設も廃止やったで。でかした!』 
 
主査『3月に30周年記念行事があったんでその分費用が増えましたからね、頑張ってコスト削減したかいがありましたわ』 
 
課長『良かった良かった!どや今日は一杯?』 
 
主査『スンマセン、もうちょっとチェックせなあかんので…』 
 
課長『真面目やなぁオマエは…ほなまた今度いこか』
 

そして翌日

主査『課長…スンマセン』
 
課長『どないしたんや?青い顔して』 
 
主査『あれからチェックしてたら費用が一つ漏れてました。30周年記念行事のケータリングの請求書5万円が3ヶ月遅れで送られて来てました』 
 
課長『…何かと思ったらそんなことか。まだ決算に入れられるがな』 
 
主査『しかし、コレを入れると利用者一人当たりの行政コストが10万円を超えるんです』 
 
課長『なん…やと…?』 
 
主査『どないしまひょ?やっぱり入れなしゃあないですかね?』 
 
課長『だいたい何で3ヶ月も遅れて請求書送ってくるんや?遅過ぎやろ!もっと早く送って来てたらその分コスト削減出来たのに!』 
 
主査『あああ!もしかしたら「確定してなかった」んちゃいますやろか?』 
 
課長『…ほう、キミなかなか優秀やな』 
 
主査『業者に確認してみますわ』
 

業者への電話

主査『…まあそういうことで、こんな遅れて請求書出されたら役所としては処理でけへんのですワ』
 
主査『…そりゃウチは払うもんはもちろん払いますよ。タダね、請求書が3月分というのがまずい。もう6月やねんからせめて5月分と書いてくれんと、内部で支払い処理できないんです』
 

そして3日後

主査『課長、例のケータリングの請求書、やっぱり3月では「未確定」で5月に「確定」したようです。なので5月の請求に修正させました。コレが正式な請求書です』
 
課長『そやろそやろ、3月に確定しとったら6月に請求書が来るはず無いんや。今年の決算の費用では無いっちゅうこっちゃ』 
 
主査『ふう、一時はどうなることかと思いました』
課長『キミホンマ優秀やな』
 
 

これは粉飾決算でれっきとした不正会計です

発生主義会計の取引の確定を恣意的に捻じ曲げて解釈し、費用の計上を遅らせているのです。
 
3月に行った30周年記念行事のケータリング代が5月に発生するなんて常識で考えたら変ですよね。業者が請求書を送るのが遅かったというのを勝手に解釈しただけです。
 
業者には言葉巧みに請求書を書き換えさせています。業者としては代金を払ってくれれば何だって良いのですから、言われるがままでしょう。
 

公共施設の自己の正当化

利用者が少なくても、いざ廃止されるとなったら今までその施設を頼りにしていた利用者は相当な不便を被ることになるでしょう。
 
例えばそれが福祉施設であったら、その施設への愛着とか、ポストへの執着『この施設を拠り所にしている利用者を路頭に迷わせるわけには行かない』という耳触りの良い大義に容易にすり替わります。
 

粉飾決算は民間の企業会計の負の側面です

過去に公務員による粉飾という事件はあまり聞いたことがありません。これは決算について粉飾する動機が弱く、現金主義では判断の余地が無く極めて困難だったからです。
 
民間の事例では東芝が不適切会計で問題となっています。
公務員だから粉飾しないなんて千日は思いません。民間も公務員も同じ人間なんです。
 
今後、統一的新地方公会計制度が浸透し、実際に施設の統廃合の参考として機能するようになると、粉飾決算の動機が強くなる
 
企業会計のもたらす『効率化』だけでなく『粉飾の動機づけ』という負の側面も取り入れるという問題点があることを良く認識しておかなくてはなりません。
 

逆粉飾の動機もある

また、利益が出過ぎる『給料高すぎじゃないか?』とか『そんなに儲けてるなら料金を下げろ』とか色々言われるようになって来る可能性があります。そうなると、利益を実態より小さくする逆粉飾動機に繋がるでしょう。
 
特に今後は高齢化が進むと、時間に余裕があって元気な老人が増えますからね…私もその一人です(笑)。
ヴェネツィア ため息橋からの眺め
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ヴェネツィアのドゥカーレ宮殿の尋問室と牢獄を結ぶ橋であり、ため息橋からの眺めは囚人が投獄される前に見るヴェネツィアの最後の景色だったと言われる。
 
 

以上、千日のブログでした。

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